空中|放《はな》れ業《わざ》


 穴の中に落ちこみ、気を失ってしまった春木少年は、その直後に起った地上の大活劇《だいかつげき》を見ることができなかった。
 まったく、彼の思いもかけなかったような活劇の幕が、そのとき切って落されたのであった。
 ヘリコプターから、とつぜん、だだだだッ、だだだだッと、はげしい機関銃が鳴りだした。弾丸《たま》は、戸倉老人の倒れている身辺《しんぺん》へ、雨のように降りそそいだ。弾丸が地上に達して石にあたると、ぴかぴかッと火花が光り、それが夕暮のうす闇の中に、生き物のようにおどった。だが、弾丸は、戸倉老人のまわりに落ちるだけで、老人の身体は突き刺さなかった。
「うわッ、なんだろう」滝つぼの正面の道路の上に、少年の姿があらわれた。春木ではなかった。牛丸少年であった。彼はようやく生駒《いこま》の滝《たき》の前に今ついたのであった。彼にはまだこの場の事態《じたい》がのみこめていなかった。だから身の危険を感じることもなく、道のまん中に棒立ちになって、火花のおどりを、いぶかしく眺《なが》めたのであった。
 が、一瞬ののち、彼は戸倉老人の倒れている姿を認めた。ま
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