度、前を往復する。しかし牛丸少年のところへは寄らない。どうやら博士は、階下《した》の戸倉老人を診察にゆくように思われる。老人は、ずっと身体がよくないのであろう。ある日の夕方、食器を下げるために、小竹さんがまわってきた。いつものように頬《ほお》かぶりをし、その上にうす茶色の、かたのくずれた鳥打帽をのせていた。彼は、監房の鉄格子《てつごうし》をとんとんと叩いて、牛丸少年に早く食器をだせとさいそくした。
 牛丸は、食器を両手に持って、入口までいった。そして鉄格子の向うに待っている人物と顔を見あわせて、おどろいた。
「しいッ」相手は、唇へ指を立てて、しずかにするようにと注意した。頬かぶりに鳥打帽の姿はいつも見なれた小竹さんの姿だったが、顔はちがっていた。ひげだるまのような戸倉老人であったではないか。
「あッ、あなたは、どうしてここへ……」
「しずかに、わしは君に聞きたいことがあって、危険をおかしてここへやってきた」
 と、老人はそれから岡持を床へおき、顔を鉄格子につけて早口で牛丸君に話しかけた。そのときの話は、主に春木少年のことであった。だが老人は、彼が春木に渡した黄金メダルのことについては一
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