言もいわなかった。老人の知りたいのは、春木君の安否《あんぴ》であったようである。
 だが老人は、牛丸少年の話から考えて、春木少年の身の上に危険があることを悟《さと》った。それで春木君に警告するために、なんとか方法を考えたいと、これは牛丸君にも話した。
「ぼくをここから逃がして下さい。そうすればきっと春木君に、あなたの言伝《ことづて》をつたえます」
 牛丸はそういった。老人は考えておくといい、その場を去った。彼は奥へ引返し、そして階段を下りていった様子である。
 それからしばらくすると、彼はもう一度牛丸の監房の前へやってきた。だがそれは戸倉老人ではなく、本物の小竹さんであった。
 牛丸は、おやおやと思った。そして疑問が一つ、ぴょんと湧《わ》いてでた。
(おかしいぞ。戸倉老人は、この口がきけず、耳のきこえない小竹さんに、どういう方法で話を通じて、小竹さんに変装《へんそう》することを承知させたのだろうか)
 全くふしぎなことだ。
 ひょっとすると、小竹さんは、わざとよそおっているのではあるまいか。そう思った牛丸少年は、空《から》になった食器を渡しながら、小竹さんに話しかけた。すると小竹さんは
前へ 次へ
全242ページ中125ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング