出していたら、死期《しき》を早めるだろうと思った。だから早く老人のいうとおり、岩かげかどっかへかくれるのが、老人のためになると思って、立ち上った。
 が、老人にたずねなくてはならないことが、たくさんあった。
「この卵みたいなものをどうすればいいんですか」
「な、中をあけてみなさい。早くかくれるんだ。だんだん空から近づくあの音が聞えないのか。早く、早く」
 そういわれて春木少年は気がついた。頭の上からおしつけるような、ごうごうたる物音がしている。でも、もう一つ老人に聞いておかねばならないことがあった。
「おじさん。おじさんの名前は、なんというのですか」
「まだ、そこにぐずぐずしているのか」
 重傷の老人は腹立たしそうに叫んだ。
「わしの名はトグラだ」
「トグラですか」
「戸倉八十丸《とぐらやそまる》だ。早くかくれろ。一刻《いっこく》も早く! さもなきゃ、生命《いのち》がない。世界的な宝もうばわれる。早く穴の中へ、とびこめ。あのへんに穴がある。だが、気をつけて……」
 老人の声は、泣き叫んでいるようだ。
 春木は、今はこれ以上、老人をなやませては悪いと思った。そこで、瀕死《ひんし》の老人の
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