値打《ねうち》のあるものですか」
 少年は、老人の義眼を、手のひらの上でころがしてみながら、不審《ふしん》がった。
 そのとき滝のひびきの中に、別の物音がはいって来た。ぶーンと、機械的な音であった。春木少年はまだ気がついていなかったが、老人の方が気がついて、びっくりした。
「おお、キヨシ君。悪い奴《やつ》がこっちへ来る。あんたは、早くそれを持って、洞穴《ほらあな》か、岩かげかに早くかくれるんだ。早く、早く。いそがないと間にあわない。そして、空から絶対にあんたの姿が見られないように、気をつけるんだ。さあ。早く……」
「どうしたんですか。そんなにあわてて……」
「わしを殺そうとした悪者《わるもの》の一派が、ここへやって来るのだ。あんたの姿を見れば、あんたにも危害《きがい》を加えるだろう。よくおぼえているがいい。悪者どもが、ここを去るまでは、あんたは姿を見せてはならない。身体を動かしてはならない。あんたは今、わしからゆずられた大切な品物を持っているということを忘れないように。さ、早くかくれておくれ」
 老人は、気が変になったように、わめきつづける。
 春木少年は、重傷の老人がこの上あんな声を
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