、奥へゆこうとして身体をすこし曲げた。そのときすばやく犯人が握っているピストルが老人の心臓を服の上からねらい、直《ただ》ちに引金がひかれたのにちがいない。老人の死顔には苦悩のあとも恐怖の表情もなく、おだやかな顔であった。そしてそのままそこに倒れると傷口からは血がとめどもなくふきだし、ついに店前まで流れていったのだと思われる。
 それから犯人はどうしたか。それがさっぱり分らない。何か目星をつけてきたものがあって、それを取出して、すばやく逃げうせたものか、それとも老人を斃《たお》しただけで、すたこら逃げだしたものか、なんとも分らない。このへんで秋吉警部の捜査はゆき詰ってきたのであった。
 しかたがないので、警部は、各署や水上署《すいじょうしょ》までに通告して、チャン老人殺しに関係あるあやしい人物があったら知らせてもらいたいとたのんだ。こんな方法では、運をたのむようなものだ。しかし証拠物が集らないし、事件の目撃者もあらわれないのだから、こんなことでもする外《ほか》なかった。
 水上署には、外国船員にも気をつけてくれるように特に依頼した。だが、外国船員にあやしい者があっても、これを検挙するまで
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