える、聞える、降りしきる雨の音にまじって、ブーンブーンとヘリコプターの唸《うな》り声。しかも、その音が、またたくまにヘクザ館の上空へちかづいてきたかと思うと、やがて、さっと上から探照灯《たんしょうとう》の光が降ってきた。
「あっ、しまった。ヘクザ館のありかを探しているのだ」
 戸倉老人が叫んだとき、ダダダダダと物凄《ものすご》い音を立てて、機関銃がうなりだした。ヘリコプターのうえからヘクザ館の周囲にむかって、機関銃の雨を降らせているのである。
「危い。みんな、物陰《ものかげ》にかくれろ」
 一行七人、蜘蛛《くも》の巣《す》を散らすがごとく、四方の壁にちると、カーテンのうしろに身をかくした。
 ダダダダダダダダダダ!
 機関銃のうなりはひとしきりつづいて、ヘクザ館の周囲の森に、弾丸が雨霰《あめあられ》と降ってくる。

   大団円《だいだんえん》

 やがて、機銃のうなりがピッタリやむと、ヘリコプターはヘクザ館の上空に停止したらしく、ブーンブーンといううなり声が、同じ方向から落ちてくる。
 ああ、わかった。わかった、四馬剣尺《しばけんじゃく》は今夜、空からヘクザ館を襲撃しようとするのだ。そして、そのために、誰もヘクザ館の塔へ近寄らせぬよう、空から威嚇射撃《いかくしゃげき》をやったのだ。修道僧たちは、おそらく、蒼《あお》くなって、自分の部屋でちぢこまっていることだろう。ああ、なんという、傍若無人《ぼうじゃくぶじん》の悪虐振《あくぎゃくぶ》り!
 少年探偵団の同志五人、それに戸倉老人と秋吉警部が、いきをこらしてカーテンのかげにかくれていると、知るや知らずや、やがて忽然《こつぜん》として、塔のなかへ入ってきたのは、木戸に仙場甲二郎それにつづいて机博士、最後が覆面の四馬剣尺。ヘリコプターが照らす探照灯《たんしょうとう》の光のために塔のなかは、昼よりもまだ明るいのである。一同はいま、ヘリコプターから縄梯子《なわばしご》づたいにおりてきたのであろう。脚が少しフラついていた。
「やい、机博士」四馬剣尺はヨチヨチとした足どりで、聖壇のまえまで近寄ると、われがねのような声で怒鳴《どな》った。
「さあ、いよいよ宝の山へやってきたぞ。いまわしが手を下せば、宝はたちどころにわしの手に入るのだ。どうだ。うらやましいか。貴様もおとなしくしていれば、少しはわけまえにあずかれるのに、わしを裏切《うらぎ》ったばかりに、宝の山へ入っても、手を空《むな》しゅうしてかえるよりほかはないのじゃ。わっはっは、わっはっは!」
 四馬剣尺が腹をかかえて笑っているとき、ギリギリと奥歯をかみ鳴らした机博士、物凄《ものすご》い形相《ぎょうそう》をしたかと思うと、いきなり四馬剣尺の体を背後《はいご》からつきとばした。
 と、これはどうだ。
 あのいわおのような体をした覆面《ふくめん》の頭目の体がふがいなくもフラフラよろめいたかと思うと、やがて、腰のへんからふたつに折れて、ドシンと床にひっくりかえった。
「おのれ!」四馬剣尺は覆面のなかで叫んだが、どういうものか、モガモガ床で、もがくばかりで、なかなか起きあがることができないのだ。木戸と仙場甲二郎が呆気《あっけ》にとられてみていると、やがて、四馬剣尺のダブダブの服のなかから、ピョコンととびだしてきたものは、ああなんと、小男と立花カツミ先生ではないか。
 カーテンの陰にかくれていた七人も驚《おどろ》いたが、それにも増してびっくりしたのは木戸と仙場甲二郎。まるで蛙《かえる》でも踏んづけたように、ギャッと叫んでとびあがった。
 このなかにあって、唯ひとり、腹をかかえて笑いころげているのは、悪魔《あくま》のような机博士だ。
「わっはっは、わっはっは、東西東西、覆面の頭目、四馬剣尺の正体とは、男のような女に肩車《かたぐるま》してもらった小男とござアい。わっはっ、わはっはっは! やい、その女、貴様は小男の娘だろう。そして、猫女とは貴様のことだな。貴様は親爺《おやじ》と同じ服のなかに入って、われわれをさんざんおもちゃにしやがった。やい、木戸、仙場甲二郎、相手はこんな小男と、たかが女とわかっちゃ何も恐れることはないんだ。こんなやつのいうことを聞くより、この机先生の乾分《こぶん》になれ。そいつらふたりをやっつけてしまえ」
 だが、このとき、机博士は、四馬剣尺の恐ろしい武器のことを忘れていたのだ。
 机博士は、最後の言葉もおわらぬうちに、
「あっちちちち」と、叫んで右の眼をおさえた。見ると、太い針がぐさりと右の眼につきささっている。
「あっちちちち」
 机博士はふたたび叫んで、今度は左の眼をおさえた。同じような太い銀の針が左の眼にもつっ立っている。
「あっちちちち、あっちちち、わっ、た、助けて……」
 小男のかまえた毒棒《どくぼう》からは、まるで一本の糸の
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