い音がして、山小屋がグラグラとゆれたかと思うと、東の窓がパッと明るくなった。
「あっ、わかった。山塞に何かあったんだよ、それで、一味のものが、ヘリコプターで逃げだしているのだ」
パチパチと物のはぜるような音は、ますますはげしくなってくる。ドカーン、ドカーンと、爆発するような音が、ひっきりなしにつづいて、東の窓はいよいよ明るくなってきた。
ブーン、ブーン――竹トンボをまわすような唸《うな》りは、しだいにこちらへちかづいて、やがて、山小屋の上空までやってきた。と、思うと、
ダダダダダダ! すさまじい音を立てて、機関銃がうなりだした。山小屋の周囲の岩石に、機関銃の弾丸《たま》が、あられのように跳《は》ねっかえる。
「あ、危い!」三人はパッと床に身をふせる。
「お、おじさん、見つかったのでしょうか」
春木少年の声もさすがにふるえていた。
しかし、あいては、たしかにここという確信があったわけでもないらしく、ひとしきり機関銃の雨をふらせると、そのままゆうゆうとして、西のほうへとび去った。
「ひどいやつだ。いきがけの駄賃《だちん》とばかりに、機関銃をぶっぱなしていきおった」
「いくらか臭《くさ》いとにらんだんですね」
「そやそや、ひょっとすると、このなかかも知れんと思うてうちよったんや」
三人とも汗びっしょりである。いまさらのように、兇悪無残《きょうあくむざん》なやりかたに、腹の底まで凍《こお》るような気持ちである。さいわい、三人とも怪我がなかったからよかったようなものの、もうしばらく、機銃掃射をつづけられたら、どんなことになっていたのかわからないのだ。それを考えると、三人はゾッとして顔を見合《みあわ》せた。さて、それから間もなく、ヘリコプターの爆音が、西の空に消え去るのを待って、三人が山小屋から外へとびだしてみると、東のかた、六天山の上空には、炎々《えんえん》たる焔《ほのお》がもえあがっていた。
パチパチと木のもえさける音、ドカーン、ドカーンとひっきりなしに聞える炸裂音《さくれつおん》、そのたびに、蒼白《あおじろ》い閃光《せんこう》が、パッと焔と煙をつらぬいて、阿鼻叫喚《あびきょうかん》の地獄絵巻《じごくえまき》とはまったくこのことだった。
戸倉老人と春木、牛丸の二少年は、呆然《ぼうぜん》として顔を見合せたが、それにしても、どうしてこんなことになったのであろうか。
それをお話するためには、話を少し、もとへ戻さねばならぬ。
首領《かしら》の両脚《りょうあし》
裏切者の机博士が、猫女《ねこおんな》のはる綱にひっかかって、あわれ断崖《だんがい》のうえから、いのちの宙吊《ちゅうづ》りをやらされたことは、諸君も知っていられるとおりである。
町へ使いにいった、仙場甲二郎《せんばこうじろう》という男が、この宙吊りを発見するのが、もう少し遅れたら、さすがの悪党博士もどうなっていたかわからない。おそらく、綱は棒からはなれて、博士はまっさかさまに谷底へついらくし、柘榴《ざくろ》のようにはじけていたかも知れないのだ。
しかし、さいわい、仙場甲二郎の注進《ちゅうしん》によって、山塞《さんさい》のなかは大騒ぎになった。誰も博士が首領にたいして、あのような裏切行為をはたらいたことは知らないからよってたかって、やっと博士を、崖のうえへひっぱりあげた。
このときばかりはさすがの机博士も、よっぽど肝《きも》をひやしたと見えて、青菜《あおな》に塩《しお》のようにげんなりしていたが、それでも、いうことだけはいい。
「いや、地獄の一丁目までいってきたよ。は、は、は、とんだお茶番《ちゃばん》さ」
「先生、じょ、冗談じゃありませんぜ。いったい、誰があんなことをしたんです」
「猫女だよ」
「猫女あ……?」波立二《なみたつじ》がとんきょうな声をあげた。
「猫女といやあ、いつか首領の手から、黄金メダルの半ペラをうばっていった……」
「そうそう、あいつだ。あいつが暗闇のなかからとびだして、わしをあんな眼にあわせおったのだ。あいつはほんとに闇のなかでも眼が見えるらしい」
さすがの荒くれ男も、気味悪そうに顔を見合せた。
「それじゃ、先生、あいつがまた、この山塞へしのびこんだというのですかい」
「そのとおり、あいつはまるで空気のように、どこからでもこの山塞へしのびこむのだ。ひょっとすると、まだそこらの闇にしのんでいて、だしぬけにズドンと一発……」
「いやですぜ、先生、気味の悪い。いかにあいつがすばしっこいたって、忍術使《にんじゅつつか》いじゃあるまいし……」
「いや、そうではない。あいつは暗闇のなかで、眼が見えるくらいだから、忍術も使うかも知れん。だって、考えてみろ。いつかの晩だって、電気が消えたと思ったら、そのとたんあいつの声が四馬頭目《しばとうもく》のう
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