とヘ)ザールは仲悪かり
(しため協力せず)、互いに相手の有
(する黄金メダルの)一片を奪わんも
(のと暗殺者を送)りしため、両人共
(斃《たお》れ黄金メダルは暗)殺者の手に移
(り、それより行方不明)になりたり
(ここにある一片はオ)クタンの所蔵《しょぞう》
(せし一片にして余は地中)海|某島《ぼうとう》に
(おいてこれを手に入れたる)ものなり
[#ここで字下げ終わり]

「まあ、こういうことなのじゃ。実はもう一枚このあとに絹ハンカチがあるのじゃ。これはわしが春木に渡すひまがなかったもので、六天山塞のきびしい取調べのとき、うまく見つけられないですんだものだ。それはわしの靴の中にしまってある。これがそうだ」
 そういって戸倉老人は、右の靴をぬぎ、踵《かかと》のところをしきりにいじっていたが、そのうちに踵のところに小さな四角い穴があいた。その中からひっぱりだしたのが、絹ハンカチのもう一枚だった。それに次のような文句が書いてあった。

[#ここから2字下げ]
――因《ちなみ》に海賊王デルマは、かつて日
本にも上陸したることありと伝う。
彼は大胆にして細心《さいしん》、経綸《けいりん》に富《と》むと
共に機械に趣味を有し、よく六千人
の部下を統御《とうぎょ》せり。また彼の部下ヘ
ザールは、デルマが去りし後も一年
有半日本に停《とどま》り、淡路島《あわじしま》とその対岸《たいがん》
地方を根城《ねじろ》として住みしが、日本人
には害を及ぼすことなかりしため彼
を恐ろしき海賊と知る者なかりし由《よし》
なり。彼は義《ぎ》に固《かた》く慎重《しんちょう》にして最も
デルマに愛せられたり。オクタンは
剛勇《ごうゆう》にして鬼神《きじん》もさけるほどの人物
なりき。
[#ここで字下げ終わり]

「どうだね。今読んだ文章の意味が分ったかね」
 戸倉老人は、そういって二人の少年の顔を見くらべた。
「分ったような、分らないような、どっちだか分らない」
 と、春木がいった。すると牛丸が笑った。それにつられて老人も笑った。春木も、なんだかおかしくなって、いっしょに笑った。
「それじゃ、もう一度話に直してしゃべろう。結局《けっきょく》ここに書いてあるとおりのことなんだが……」
 と、老人は、ことばに直して、同じことを復習して聞かせた。もちろん、ハンカチに書いてあるよりはくわしかった。しかし要領《ようりょう》は同じことであった。
「……あの黄金メダルの半ぺらを、わしが手に入れたときは、わしはある汽船に船医《せんい》として乗組んでいて、たまたま地中海を通ったのだ。そのときわしの乗っていた汽船が舵器《だき》に故障を起したので、その某島へ寄って修理をやった。そのために前後五日間そこに仮泊《かはく》していた。その間に、わしははからずも黄金メダルを手に入れたのじゃ。……どうしてそれを手に入れたか。そのことは、宝探しには直接関係のないことじゃから、おしゃべりしないでおくよ」
 老人は、そういってことばを結んだ。なにかいいにくいことがあるにちがいないと、春木はそう思った。
 とにかく、おどろくべきことだ。
 今までは、一片《いっぺん》の屑金《くずがね》にすぎないではないかと軽く見ていたが、こうしていわれ因縁《いんねん》を聞くと、海賊王デルマの死霊《しれい》が籠《こも》っているように気味のわるい品物に思えた。
「惜しいことをしました。あれを盗まれてしまって、まことに残念です」春木は、ほんとに残念でならなかった。
「まあ、よいわい。わしが自由の身になったからには、なんとかして取戻す方法がないでもないのじゃ。うまくいったら、君たちにも知らせてあげる。しかしこのことは、他の人には絶対秘密にしておくがよいぞ」
「はい」
 と春木はこたえた。しかし、彼はこのことを他の人々にもしゃべってしまったことを思い出して、苦しかった。もっともしゃべったのは、金谷《かなや》先生と四人の少年探偵の級友と、それからここにいる牛丸君だけにではあったが……。
「おじさんは、そのメダル探すあてがおまんのやな」
 牛丸少年がたずねた。
「うむ。まあ、そういう見当じゃ」
「どこだんね。骨董店《こっとうてん》やおまへんか。海岸通《かいがんどお》りの方の骨董店とちがいますか」牛丸は春木から聞いたチャンフー号の店の話を思い出して、あてずっぽうながら、いってみた。
「ほう」と戸倉老人は目を丸くした。「そんならその店の名をいってみなさい」
「万国骨董商《ばんこくこっとうしょう》のチャンフー号ですやろ」
 すると戸倉老人は卒倒《そっとう》せんばかりにおどろいた。チャンフー号の事件については、春木は牛丸には話したが、戸倉老人にはまだ話をしてなかったのだ。
「どうしてそれを知っているのか」
「あそこの店には、なんの品でもおます
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