お話は、もう聞きたくありませんわ」
「金谷先生のいうことに、連れの立花先生がうしろにこわい顔をして立っているものだから、ついにはいるのをあきらめたといってますよ」
「えッ」と立花先生はかたい顔になって金谷先生の方に向き直ったが、すぐ顔を和《やわら》げ、
「金谷先生。よけいなおしゃべりをなさるものじゃありませんわ。かかりあいがあると思われて、警察へひっぱりだされるようなことがあったら、つまらないじゃありませんの」と、かるくたしなめた。
「まいった。これは一本まいりました。今までのおしゃべりは取消しだ」
と、金谷先生はすっかり悄気《しょげ》てしまった。それがまたおかしくてたまらないと、同僚たちは腹をかかえて笑った。
金谷先生は、てれくさくなって、ひとりその座を立って、運動場へでていった。運動場では、早く登校した生徒たちが、元気にはねまわっていた。
「金谷先生」先生は、自分の名前をよばれて、はっとわれにかえり、その方を見た。
四人の少年が、そろって、前へ近づいた。その中には春木少年の顔が交《まじ》っていた。その外に、小玉《こだま》君、横光《よこみつ》君、田畑《たばた》君の三少年がいた。
「どうしたの。いやに改まっているね」
と、金谷先生が受持の学童の顔を見まわした。
「先生。ぼくたち四人は、少年探偵団を結成しようと約束したんです。それで、先生に少年探偵団の顧問《こもん》になっていただきたいのです」少年たちの話は意外な申入れだった。
「少年探偵団だって。それはいったい、なんの目的で結成するのかね」
「まず第一の目的は、ぼくたちの級友である牛丸君を一日も早く救いだしたいことです」
「それは警察がやってくれる。君達が手をださないでもいい」
「でも、警察だけにまかせておけないと思うんです。なにしろ、今になっても、警察はすこしも活動をしてないようですからね」
「それは相手が手ごわいから、準備のためにそうとう日がかかるんだろう。君たちがでかけていってもだめさ。相手が強すぎるからね。返《かえ》り討《う》ちになるよ」
先生は、少年たちが、きっと落ちこむにちがいない悪い運命を思って、その企《くわだて》に反対した。だが、少年たちは、そんなことでは尻《しり》ごみしなかった。春木少年は、言葉をつづける。
「第二の目的は、世界にまれな宝さがしに成功することなんです」
「なんだって。世界にまれな宝さがしとは……」
「先生。牛丸君がかどわかされたことも、実はこの宝さがしに関係があると思うんです。そしてほんとうは、ぼくが連れていかれるはずのところ、賊《ぞく》はまちがって牛丸君を連れていったんだと思うんです」
「君のいっていることは、さっぱりわけが分らない」
「それはこの事件のはじまりからお話しないと、お分りにならないのです。実はこの前、牛丸君とぼくと二人でカンヌキ山へのぼりましてねえ……」と、それから生駒《いこま》の滝《たき》の前で戸倉老人にめぐりあい、黄金《おうごん》メダルの半かけと絹地《きぬじ》にかいた説明書をもらったことから、メダルを失ったことまで、残りなくすべてのことを金谷先生にうちあけた。
先生はおどろいて、はじめは「ほう」とか「おもしろいね」といっていたのが、終りには腕をくみ、身体をかたくして、「ふん、それからどうした」とか、「それはたいへんだ。で、どうした」とか、さかんに力んでたずねた。
「これが焼け残った絹のハンカチの一部です」
と、春木少年が金谷先生の手にそれを渡したとき、先生の緊張は頂点《ちょうてん》に達した。
「なるほど。これはほんものだ。えらいことになったものだ」
先生はそこで頭をひねって、しばらく沈黙したが、やがてあたりへ気をくばり、低い声でいった。
「春木君。先生は昨日、君がとられたという黄金メダルの半ぺららしいものを、海岸通りの横丁の骨董店の飾窓の中に見かけたよ」
「ええッ。先生、それはほんとうですか」
「ほんとうかどうか、とにかく君が今話をした三日月形《みかづきがた》の黄金メダルというのによく似ていた。君の話では、お稲荷《いなり》さんのお堂に住んでいた男が、あの店へ売ったんじゃないかな」
「あッ、それにちがいありません。先生、その店はなんという店ですか。どこにありますか。教えて下さい。これからぼくはすぐいって、取返してきます」
こんどは春木少年の方が、大昂奮してしまった。
「待ちたまえ、春木君。その店の老主人は昨日何者かのためにピストルで殺されてしまったんだよ。今朝の新聞を見なかったかね」
「ああッ。そうか。すると今朝の新聞にでかでかと大きくでていたチャンフー号主人殺しというのはこの店ですね」
「そうなんだ。だからね、今はその筋で殺害犯人を見つけようと鵜《う》の目|鷹《たか》の目でさがしているから、君なんかうっかり
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