いくと、たちまち捕えられて、容疑者になってしまうよ。そしたら、いつ娑婆《しゃば》へでてこられるか分りゃしない」
先生がおそれるわけは、もっともであった。しかし春木少年は、警察にこの話をしてもいいと思った。そして店の飾窓にあったその黄金メダルを、自分にかえしてもらうには、早く話をした方が有利だと考えた。
この考えを話すと、先生は困ってしまった。
(しまった、とうとうまたおしゃべりをしすぎた。さっきあんなに立花先生からいましめられていたのに、それを忘れて又しゃべった。下手をすると、自分は参考人か容疑者《ようぎしゃ》として警察へ引っぱられるかもしれん。これは困ったことになった)先生の悄気かたはひどかった。
きびしい尋問《じんもん》
「頭目《かしら》。いったいどこへいってたんです。この二日というものは、頭目を探すので、大骨を折りましたぜ。しかも連絡はつかないじまい。骨折り損のくたびれもうけです」
四馬剣尺《しばけんじゃく》が、どっかと腰をかけた頭目台《とうもくだい》の前へいって、この山塞《さんさい》の番頭格の木戸が、うらみつらみをのべたてた。木戸は、よほど骨を折ったものと見える。
「ふふン」四馬は、かるく笑っただけであった。
「こんどからは、なんとかたしかな連絡の道を用意しておいていただかないと、万一のときにわしは、この山塞を持ち切れませんよ」木戸は久しぶりに腹を立てているらしい。
「大丈夫だ。万一のときは、おれがとびこんでくるから、心配はいらねえ」
「こっちから知らせたいことがあっても、それができないとすれば、結局頭目の大損害じゃないですか」
「すると、なにかおれに知らせたいことがあったんだな。それは何だい」
「わしではないんです。机ドクトルが、何か見つけてきたんです。それが三日前のことで、ドクトルは町へいったんです」
「ふーン。三日前のことか」
頭目は、ベールの中で、日を逆《さかさ》にかぞえているようであった。
「チャンフー殺しのあった日のことだな」
「そうです。あの日の午後、ドクトルは息せき切ってここへ戻ってきましてな、『頭目はどこにいる』と食いつくようにいうんです。どうしたのかと訊くと、『一刻も争うことだ、頭目の耳に入れたいことがある』という。なんだと聞きかえすと、『黄金メダルの半ぺらが、海岸通りのある店の飾窓に売りにでている』というんです。わしはおどろきましたね」
「それからどうした」頭目は気色ばんで、その先の話をさいそくした。冠《かんむり》の下のベールがゆらゆらと動く。
「それから頭目探しです。みんなをかりたてて、あらゆるところを探しまわりましたね。ところがだめなんです。机ドクトルからは、『まだか、まだか』と、きついさいそく。困りましたね。それで三日間、得《う》るところなしです」
「ばかだなあ。そんなものが見つかれば、なぜすぐに買いにいかないんだ」
「おっと。それはいわないことにしてもらいましょう。この山塞では、四馬剣尺頭目が命令しないことは何一つ行えないきびしいおきてになっているんです。これは頭目、あなたが作ったおきてですよ」
「よし、そんならよし。じゃあ、机博士をここへ呼んでくれ」
「はい」木戸がでていくと、やがて机博士がいれかわって細長い身体をこの部屋にあらわした。彼は木戸とちがって落ちつきはらっていた。頭目の前までいって、卓《たく》をへだてて、四角い椅子に腰を下ろした。
「ご用ですかな」
「今、木戸から聞いたが、三日前に、海岸通りのある店で、黄金メダルの半ぺらを見つけたって」
「偶然に見つけましたよ。さっそく頭目に知らせようと骨を折ったんですが、残念にも、頭目に運がなかったな」
「本物かい」
「さあ、私は本物と鑑定しましたね。それも頭目がこの間まで持っていた半ぺらではなくて、その相手になる半ぺらでしたよ。三日月形をして、骸骨《がいこつ》の顔が横を向いているようでした」
「お前は、それを手にとってみたのか」
「手にとってみましたとも。万一、にせ物では頭目に知らせてお叱りをこうむるばかりだから、掌《てのひら》にのせて比重をあたってみました。たしかに純度の高い黄金でできていることにまちがいなし。そこで値段を聞いたら、三十万円というんです。その因業爺《いんごうじじい》のチャンフーという主人がね」
「三十万?」頭目はちょっとことばをとめたあとで「三十万円にちがいないか」
「ちがいなし。しかしなぜ頭目は、そんなことを聞くんです」
「とほうもない高値だから」
「ふふン」と机博士は、けいべつをこめた笑い方をして、
「しかしこれが例の宝庫へ連れていってくれる案内者なんだから、三十万円はやすいと思うがなあ」
「あの店の商品としては高すぎるんだ、そして君はどうした」
「どうしたもあるもんですか。さっそく山塞へかけ戻
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