いて平気をよそおい、首を左右にふった。
 すると雪子学士の面に焦燥《しょうそう》の色があらわれた。彼女は大きく眼を見開き、室内をぐるっと一めぐり見わたした。と、彼女は課長の机の前をはなれて、すたすたと室内を歩きだした。その行手に大金庫があった。――一同は固唾《かたず》をのんで、雪子の行動に注目した。
 雪子学士は、果して大金庫の前でぴたりと足をとめた。彼女の顔が心持ち喜びにゆがんだようであった。それから次に、意外な事が起こった。雪子学士は、その大金庫のハンドルに手をかけると、その大金庫をかるがると引っぱりだしたのであった。約四百キロはあるはずの大金庫が、雪子学士の手にかかると、まるで紙やはりまわした籠《かご》のように動きだした。そして雪子の姿と大金庫とは、窓の向うに滑りだしたのであった。
「待てッ」
 呆然《ぼうぜん》とこの場の怪奇をながめつくしていた幽霊係の助手の山形四段が、雪子の姿を追って後から組みつこうとしたが、それは失敗し、彼はいやというほど窓際の壁にぶつかって鼻血をたらたらとだした。
 そのさわぎのうちに、雪子の幽霊と大金庫はゆうゆうとこの部屋から姿を消し去った。
「あっ、し
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