雪子学士の姿はだんだん明瞭度を加えた。そして彼女のしなやかな手が課長の卓上にのびて研究ノートの頁《ページ》をぱらぱらと音をさせて開いた。それは急いでなされた。全部の研究ノートが二三度くりかえし開かれたが、彼女の硬い顔はいよいよ硬さを加えた。彼女はついにノートの表紙を手にもって強くふった。それは何か彼女のさがしもとめているものが見つからないので、じれているという風に見えた。
 彼女はついに手を研究ノートからはなした。そして困り切ったという表情で、机上に立ちつくしていた。
 そのときだった。室内に靴音がひびいた。
 と、田山課長の姿が走った。彼は自分の席に戻って、雪子学士に向きあった。
「あなたは木見雪子さんですか」
 課長は、いささかふるえをおびた声でぼんやりした雪子の姿に呼びかけた。
 それに対して、雪子は返事をしなかった。課長のいっている言葉が聞えないのか、それとも聞えても知らないふりをしているのか、そのどっちか分らなかった。――が、雪子学士は課長を睨みすえると、研究ノートの山を指《ゆびさ》しそして両手を前につきだした。何かを催促しているようだった。
 課長は胸をぎくりとさせたが、強
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