赤くなり、それからさっと青くなり息がはずんできた。額からは玉の汗がたらたらとこぼれおちた。
 見よ、大机の上に、ぼんやりしてはいるが、見なれない女人の姿がおっかぶさっている。若い女人のようだ。服はぼろぼろに破れてみえる。
 部屋のうちは、水をうったように静かであった。が、それは何人も少しの時間をおいてほとんど同時に雪子学士の幽霊の姿を認め、そして同様なる戦慄《せんりつ》におそわれて硬直したためだった。
 その幽霊に対し最も近い距離に席をとっていた古島老刑事は最も幽霊の発見がおそかったようである。その証拠に彼は大きな懐中時計を掌《てのひら》にのせて指針の動きに見とれ、首を亀の子のようにちぢめていたが、そのとき隣にいた山形巡査が古島の袖をひいて注意をしたので、それで始めて首をのばし顔をあげて指さされる空間へ視線を送ったが、
「あっ、でた、幽霊が……」
 と叫ぶなり、老刑事の顔色はたちまち紙のように白くなり、そして彼の身体はそのままずるずると椅子からずり落ちて、彼の頭は机の下にかくれてしまった。それをきっかけのように、部屋のあちこちで、驚愕《きょうがく》と恐怖の悲鳴が起った。
 そのうちに、
前へ 次へ
全134ページ中92ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング