分った。
 では第三の説はどうだろう。これも前に述べたように、隠れ部屋も見つからないし、また内側の錠を外からかけることも困難なので、そういう状況の下では雪子学士が、研究室または他の部屋にかくれているとは思えない。
 こんなわけで、係官の間にでた三つの説は、どれもあたらないということが一応たしかめられた。煙突からぬけでることは、もちろん駄目であった。煙のでる土管は、内径が二十|糎《センチ》くらいしかなかったのだ。
 ただ次のような説が、係官の間に、なんとなくただよっていた。それは雪子学士は誰かの助けを借りて、うまく家をでたのではないか。そして雪子を助けた者として、雪子の両親にまず有力な疑いをかけたい気持があった。しかしそれにしても、密室と思われる中から一体どうして雪子学士は姿を消したか。それはやっぱりできないことではないか。
 しかも係官がそれとなくたずねたところでは、この木見家の中に、娘の雪子学士を秘密に家出させなければならないわけはなさそうであった。近所で聞いてみても、木見家では一回も親子|喧嘩《けんか》らしいものが起った話はない。そして親子三人、いずれもしとやかないい人達であるとい
前へ 次へ
全134ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング