見邸の表座敷の方へかけだした。
 かけつけてみると、それは果して雪子の母親の発した叫び声だとわかった。
「何を見たって、やっぱり雪子の幽霊かッ」
 武平は、座敷へ飛び上って、夫人をかかえ起しながら、息せき切ってきいている。
「わたしは、お父さんが外から家へ上って廊下を歩いていなさるのだと思っていたんです。でも、何だか変だから、立っていって廊下の方をすかして見たんですの。廊下はうすぐらくて、よく見分けがつかなかったんですけれど、たしかに黒い人影が向うへ動いていきます。背の低い、熊のようにまっくろな者が離家《はなれや》の方へ。……ああ、こわかった」
「雪子の幽霊なのか、幽霊じゃないのか」
「さあ、どうでしょうか、でも雪子の幽霊なら、その後姿はありありと見える筈なんですがね、ところが今見たのはただまっくろでしたよ」
「よし、そうか。離れの方へいったんだな。皆さん、手を貸して頂きましょう」
 武平の言葉に、隣組の人たちはもじもじしながら、それでも上へあがった。そして武平を先にして廊下に一かたまりになって、たがいの身体を押しあいながら、雪子の研究室の方へ忍び足で近づいていったのである。

   
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