ま》った。どうしよう」
 川北先生の顔は、子供の泣顔のようにゆがんでいた。
「窓をあけて、追いかけましょう。間にあうかもしれないです」
「そうだ、窓をあけろ」
 身の軽い道夫は、大急ぎで図書室をでて研究室に入ると雪子の大机の上へとびあがり窓をあけた。と彼の横をすりぬけて川北先生が猟犬のように窓からぽいと外へ飛びだした。
 道夫もそれに続いて、窓を飛び越え、庭園へ下りた。
「あ、痛……」
 道夫の飛び下りたところには、生憎《あいにく》石があったために、彼は足首をぎゅっとねじり、関節をどうかした。身体の中心を失った道夫はその場に横たおしとなった。
「ああっ、痛い……」
 起上ろうとするが、右足首の関節が痛いので力がはいらない。残念である。彼は川北先生の方が心配になり、足首を手でおさえて、芝生《しばふ》の上に半身を起した。
「おお……」
 先生は、見事に雪子をとらえていた。松の木と八《や》つ手《で》のしげっている暗い木蔭の下で、先生は雪子の後から組みついていた。このとき雪子の姿が、さっきよりもずっと明瞭《めいりょう》に見えた。道夫は、先生に力を貸さなければと、起上ろうとした。が、やっぱり駄目
前へ 次へ
全134ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング