先生が異様な声をだした。道夫はそのとき戸棚の中の薬品を見ていたのだが、先生の声におどろいて、その方をふりかえった。すると先生は蒼白《そうはく》にして、塑像《そぞう》のように硬直していた。そして先生の眼は戸口へ釘《くぎ》づけになっている!
「あっ!」
こんどは道夫が叫んだ。ふりかえった彼の前をすれすれに、朦朧《もうろう》たる人影が、音もなく通り過ぎて部屋の中へ入ってきた。何であろう。何者であろう。
道夫は全身を電気に撃たれたように感じ、怪しい影の後姿《うしろすがた》を見つめたままその場に立ちすくんだ。
幽霊追跡
「木見さんのお嬢さんですね。お話があります。お待ちなさい」
川北先生は、あえぎながら、これだけの言葉をやっと咽喉《のど》からしぼりだした。
(そうだ、雪子姉さんだ)
朦朧たる人影は後姿ながら、それは道夫に見覚えのある服をきた雪子に違いない。
怪しい人影は、図書室の入口の前あたりをしずかにあるいていた。川北先生と道夫の位置は、この怪しい影をはさんでいる関係にあった。
が、怪しい影は、川北先生に返事をしようともせずそのまま図書室の中へ消えた。
「お待ちなさい
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