霊だったのでしょうか。それとも、気の迷いで、見たように思ったのでしょうか」
「いや、気の迷いなんてことはないよ。お母さんが見たばかりでなく、実は先生も雪子さんらしい姿が廊下から、この部屋をのぞきこんでいるところを、実際に見たんだからね」と、川北先生は、あの話をした。
「それにあの怪しい老人の浮浪者も見たらしいからね。しかもあの研究ノート第九冊を、雪子さんが持去るところを見たといったようだ。とにかく三人も見た人があるんだから、昨日ここへ雪子さんが姿を現わしたことは間違いなしだと思う」
「じゃあ、やっぱりそれは雪子姉さんの幽霊ですね」
「問題はそこだ。果して幽霊かどうか。もう一度現われてくれれば、きっとそれをはっきり確めることができると思うんだが……」
そういって川北先生は、深刻な表情をした。日はもう暮れ方に近づき、それに雨がきたらしく雲が急に重く垂《た》れこめて、室内は暗くなった。道夫は壁のスイッチをひねって電灯をつけた。川北先生も椅子から立上がった。
「さあ、これからどうするかな」
そういって先生は、次の捜査方針をどうたてたものかと、室内をぐるっと見渡した。
「おやッ。あ、あ……」
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