「ほんとうに、なぜ無くなったんでしょうね。幽霊がもっていってしまったんでしょうか」
道夫には解けない謎だった。川北先生も首をひねって当惑顔だった。
「幽霊なら、物を持っていく力はないだろうと思うがね。物を持っていくかぎりそれは幽霊ではなく、生きてる人間だと思う」
先生はそういった。
そこで、どこかこの部屋から外へ抜ける秘密の通路があるに違いないという見込みをたてて、二人は部屋を今日こそ徹底的に調べにかかった。
研究室だけではなく、それに続いた図書室や寝室も調べてみた。壁も叩《たた》いて、調べ、天井は棒でつきあげてみたし、床はリノリウムのつぎ目をはがしてまで調べた。戸棚類はみんな動かした。積上げてあった本の山は、いちいちおろしたし、重い器械は動かした。
そんなに念入りに調べてみたが、その結果は見込みはずれであった。
「どこにも出入りできるところはないと断定しなければならなくなったわけだね」
先生は三時間に近い力仕事と緊張とにすっかり疲れて、椅子《いす》の一つに身体をなげかけていった。
「ほんとうに秘密の出入口はないのですね。すると昨日現われたという雪子姉さんの姿は、やっぱり幽
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