てたまるものではない。この廊下、この別棟にはほかに出入口はない行停《ゆきどま》りとは聞いたがどこかに誰も知らない抜け道があるのでなかろうかという気がした道夫は、いきなり研究室の北側の窓のところへかけよって外を見た。そこは庭園になっているのであるが、
「あっ、あいつだ」
 と、思わず大きな声で叫んだ。
 道夫の目が捕えたのは、今しも庭園の木蔭《こかげ》をくぐって足早に立去ろうとする老浮浪者の姿であった。
「誰?」
 川北先生が道夫の傍へ飛んできた。
「あの怪しい老浮浪者です。あいつを捕えましょう。あいつは、この窓の下から中の様子を見ていたか、それともこの部屋へ出入したかもしれないんです」
「この部屋へ出入りができるとも思われんが、とにかく捕えて詰問《きつもん》しよう。家宅侵入をおかしたことは確かだろう」
 川北先生と道夫は玄関へとびだした。そこで老浮浪者の先まわりをして、表の塀の西の方へ廻り、裏道へでた。
「やっ」
「いたぞ」
 細い道で、双方はぱったり出会った。川北先生と道夫は、相手をにらめつけながら、じりじりと傍へ寄った。老浮浪者の目にはちょっと狼狽《ろうばい》の気色《けしき》が見え
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