九冊がなくなっているぞ。さっきまでたしかに第一冊から第九冊までそろっていたのに……」
 先生は丸卓子の上にならんだ「研究ノート」の列を指しながら唇《くちびる》をぶるぶるふるわせていた。
 怪また怪。果《はた》してそれは雪子の幽霊だけだろうか。引抜かれた「研究ノート」第九冊は誰が持っていったか。木見雪子学士の研究室には深い異変がこもっているように見える。

   問答《もんどう》

 道夫のおどろきはその絶頂に達した。
 雪子の幽霊が廊下を歩いてこっちへきたというのに、その影も形もない。そして室内にさっきまではたしかにあった研究ノート第九冊がなくなっているというのだ。なんという不思議なことの連続だろうか。
 が、道夫は大きなおどろきにあうと同時に勇気が百倍した。それは、今こそ一つの機会が到来しているのだと思った。雪子姉さんはかならずどこかこの付近にいるのに違いない。そういう気がした。そしてもっと熱心に、もっと機敏に探すならば、今にも雪子姉さんを発見できるのではないか。雪子姉さんはかならず生きている。でなければ、さっきまでこの部屋にたしかにあった研究ノートが突然紛失するなどということがあっ
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