うとした。川北先生はその間、部屋をぐるぐる見廻《みまわ》していた。そのとき先生が入口の扉の方へ眼をやったとき、暗い廊下からこっちを覗《のぞ》きこんでいる背の低い洋装の少女があった。
(誰だろう。お手伝いかな。それとも親類の人かな)と思っているとき、寝室の扉があく音がした。
「あきました。どうぞこちらへ……」
武平の声に、川北先生はそっちを見ると、武平と道夫は中へずんずん入っていく。
川北先生は、それを追い駆けるようにして寝室へ入った。そこはくすぐったいような匂いと色調とを持った高雅な女性の寝室であった。ベッドは右奥の壁に――。
「ゆ、雪子、雪子……」
突然|昂奮《こうふん》した女の声がして、研究室の中へ駆け込んできた者がある。武平が、さっと顔色をかえて寝室を飛びだした。
「おい、どうしたんだ、そんな頓狂《とんきょう》な声をあげて。……おい、落着きなさい」
「ああ貴郎《あなた》。雪子ですよ、雪子が今、ここへ入ってきたでしょう」
「なに、雪子が……」
武平の声がふるえた。
「さあ、わしは見なかったが……もっとくわしく話をなさい」
道夫も、川北先生もすぐかけつけたが、昂奮している主
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