奥から小さい眼をぱちぱちさせて、道夫の方へ深い同情の色を示しておられた。川北先生は文理科大学を卒業したばかりの若い先生で、数学と物理を担任しておられる。そして文学の素養も深くその方の話も熱情をこめて生徒たちにして下さるので、生徒たちは先生が大好きであった。
「はい、先生。僕の力ではとけない問題があって困っているんです」
 道夫は、川北先生に話をする決心をして、こういいだした。
「君の力では解けない問題だって、代数かね、それとも力学の問題かね」
「いえ、そうじゃないんです。行方不明事件とお化け問題なんです」
「えっ、何だって。行方不明事件にお化けだって」
「そうなんです。先生も新聞でごらんになってご存じかと思いますが……」
 と、道夫はそれから、お隣の木見雪子学士の行方不明事件と、昨夜雪子の研究室をのぞいて怪しい女の首を見た話をくわしくした。
「……お化けを見たなんていうと、先生はお笑いになるでしょうが、ほんとうに僕は昨夜この眼で見たのですよ」
 道夫は、気がさすか、妖怪事件については特にそういって弁明しないではおられなかった。
「いや、私はお化けの話を聞いても軽蔑《けいべつ》しないよ。
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