したことではない、おそらく刑事の半人前の仕事もできないであろう。しかし熱心に一生けんめいにやるなら、熱心でない大人よりはいい結果をあげるかもしれないと思った。そこで道夫は、事件についてのいろいろなことをノートに書きつけ、図面も描き、それを見て大人たちの見落し考え落している事件の鍵を発見しようと、小さい頭をひねり始めたのである。
 この小探偵の事件研究は、あまりはかどらなかったが、あの事件があってちょうど二週間後の頃から、この事件について新しい一つの話が、この界隈《かいわい》の人の口にのぼるようになった。それは、事件の少し前まで、毎日のようにこの近所をうろついていた老人の浮浪者《ふろうしゃ》が、どういうものかあの頃以来さっぱり姿を見せないといううわさだった。
 その老浮浪者は、実に風がわりな浮浪者だった。眼が悪いらしく、いつもこい大きな黒眼鏡をかけていた。そんなことよりも風がわりだというわけは、この老浮浪者は、別に貧乏でもないらしいのに、各家庭の裏口へ入りこんで、食をねだることだった。貧乏でもないらしいというわけは、この老浮浪者は、頭には色こそきたなく形こそくずれているが灰色の大きな中折
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