さん。幽霊使いなんてものがあってたまるものですか。はははは」
 と蜂矢は笑ったが、そこで言葉をあらためて、
「木見学士が大金庫を持ちだしたわけは、課長さんがよくご存じなんでしょう。あの大金庫の中には、木見学士が非常にほしがっているものが入っていたのです。あなたは、僕に相談なしに、まずいことをしました。だから原因はあなたにあるのです」
 この蜂矢のことばに、課長は何もいうことができなかった。正にそのとおりだ。
 蜂矢は椅子から立上ると課長の机上から木見学士の研究ノートの包をとり、さよならを告げた。
「大金庫はやがてかえってくるでしょうから、心配はいらないでしょう」
 蜂矢は、こんなことばをのこしていった。

   ふしぎな盗難

 捜査課で保管していた重要物件が入っている大金庫を奪われてしまったので、田山課長はその善後処置に苦しんだ。
 課員たちも、家へかえるどころか、そのまま課長の机のまわりに集り、これからどうして大金庫を取りもどすか、総監へはどう報告をするか、捜査にさしつかえがおこるがそれをどうしたらよいかなどと、むずかしい問題について会議をつづけねばならなかった。
「とにかく壁をぶちぬいてみるんですね」
「いやそれはだめだ。それより全国へ手配してあの大金庫を探しださせるのがいい」
「そんなことよりも、さっき幽霊が大金庫を持ってどっちへいったか、その目撃者はないか、それを大急ぎで調べる事ですよ」
「そんなものを見たという者は、ただ一人も現われないよ、怪しげな雲をつかむような話だから、頼みにはならないよ」
「困ったねえ。これじゃ全く手のつけようがありゃしない」
 一同は顔をあつめて、吐息《といき》をもらしあう外なかった。
 と、そのときであった。突然室内に大音響が起った。がらがらとガラスが破れ器物がくだける音! すわ一大事件だ。爆弾がなげこまれたのであろうか。
 一同は、反射的に、その大音響がした方へふりかえってみた。すると、東に面した硝子窓《ガラスまど》が大きく破れ、そこから冷たい夜気が流れこんでいる。その窓の下のところに並べてあった事務机や椅子がひっくりかえり、その中に見覚えのない大きな箱が、稜線《りょうせん》を斜《ななめ》にしてあぶない位置をとっている。
「おや。へんなものがあるぞ」
「あっ、そうだ。窓から飛びこんできたんだ」
「窓からとびこんできたって、ああ
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