四次元漂流
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)只《ただ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|糎《センチ》くらい
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あれ[#「あれ」に傍点]
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はじめに
この「四次元漂流」という妙な題名が、読者諸君を今なやましているだろうことは、作者もよく知っている。
だが作者は、この妙な題名について、今何よりも先に、それを説明することはしない。だから読者諸君は、ここしばらくの間、この妙な題名についてなやまされるであろう。読者諸君が、さようになやんでいるのを、作者は意地わるい微笑をうかべて、悪魔じみた楽しさを只《ただ》一人味わいたいつもりではない。いや、それとは反対に、読者諸君の興味を最も大きくしたいために、今はわざと何も説明しないのだ。
この小説が先へ進むに従って、「四次元漂流」という題名の謎は、おいおいと明らかになってくるであろう。そしてその時こそ、諸君はこれまでに聞いたことのない不思議な世界にふみ入っている御自分を発見することであろう。大きなおどろきと、すばらしい魅力とが、科学真理の車体に諸君を乗せ科学推理の車輪をつけて、まっしぐらに神秘の世界へ向って走っているのに気づかれるであろう。それはともかく、この神秘な物語も、その発端《ほったん》は一見平凡な木見雪子《きみゆきこ》学士の行方不明事件から始まる。
学士嬢の失踪《しっそう》
中学二年生の三田道夫《みたみちお》は、その日の午後、学校から帰ってきたが、自分の家の近所までくると、何かただならぬ空気のただよっているのに気がついた。
緑あざやかな葉桜の並木、白い小石を敷きつめた鋪道《ほどう》、両側にうちつづいた思い思いの塀《へい》、いつもは人影とてほとんど見られない静かな住宅区の通りであったが、今日ばかりはそうでなかった。顔なじみの近所のお手伝いさんが、ほとんど総出《そうで》の形で、どの家かの勝手口の門の前に三四人ずつかたまって、何かひそひそ話をしながら、通りへ眼をくばっていた。中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀の蔭《かげ》や横丁《よこちょう》の曲り角に立っていた。洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付《めつき》をして、道夫
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