の方をじろじろと見るのだった。
あまりきれいでない自動車が二台、道夫の家の前に停《とま》っていた。いや、道夫の家の前ではない。お隣の木見さんの家の前らしい。そのそばに、警官の姿を発見したとき、道夫ははっきりと何か事があるなとさとった。
「あ、何かかわった出来事が起ったんだな」
それは一体どんな出来事であろうか。誰かが伝染病にでもかかったのであろうか。それとも火事でもだしたのであろうか。いや、火事ではなさそうだ。消防署の自動車の姿もなければ、道も水にぬれていない。
「ひょっとしたら、強盗事件かな。まさか……」
もし強盗が木見さんの家をおそったものなら、夜中に叫び声が聞えそうなものだ。それとも強盗が明け方までがんばったのだろうか。それなら道夫が今朝《けさ》学校にでかける頃には、もうたいへんなさわぎになって近所へ知れていなければならない。ところが、そんなこともなかった。では、どうしたのであろうか。道夫は自分の家の勝手口へ通ずる小門までくると、それを開いて入った。そのとき、お隣の前に停っている二台の自動車の一方に、警視庁の文字があり、他の車には警察署の文字があるのを見た。
道夫は、植込《うえこみ》の間をぬけて内玄関へ急いだが、往来にはどの家でも誰か顔をだしているのに、道夫の家だけは誰もでていないことに気がつき、何だか異変は自分の家にもありそうな気がして、胸がわくわくしてきた。
「只今《ただいま》。お母さん……」
格子戸《こうしど》を明けるが早いか、道夫は悲鳴に近い声で、母を呼んだ。
「あ、道夫かい。おかえりなさい」
母の声がすぐ聞えた。それは別に取乱した声ではなかった。それで道夫は、ふうっと大きな溜息《ためいき》をついて、(まあよかった)と思った。事件は我家に起ったのではないらしい。
道夫は靴をぬぐのももどかしく、中にむかって声をかけた。
「お母さん。どうしたの、お隣の木見さんの前に、警視庁なんかの自動車がとまっていますよ」
「ああ、そうかい。さっき自動車の音がしたと思ったが、そうだったのね」
「どうしたのよ、お母さん。木見さんのお家では……」
道夫は、鞄《かばん》を肩からとって、手にさげたまま、茶の間からでてきた母親にむかいあった。
「それがね、よく分らないけれど、木見さんの雪子さんが、どこへいかれたか、行方不明なんですってよ」
「へえ、雪子姉さんが……」
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