分不審な点があるネ。たとえば速水女史が水壜の水を早速明けに行ったというのも妙なことじゃないかネ。どうだい珠枝さん。その壜とかコップとか、或いは水の零《こぼ》れを拭《ぬぐ》った雑巾《ぞうきん》とかいうものは残っていないかしら」
 貞雄が抱いている疑惑の点を、妾はすぐに察することが出来た。彼は真一の死を中毒死だと思っているのだ。それは貞雄があの部屋の中で口にしたと思われるその水壜の中に一切の秘密があると云うらしい。
「そんなものは、その場で始末してしまったから、有る筈はなくてよ」と云ったものの、よく考えてみると、妾はあの夜離座敷を大急ぎで片づけたことを思い出した。あのとき部屋の中の品物を仕舞ったトランク類はその儘《まま》土蔵の奥深く隠してしまって、その後は一度も開いたことがないのであったが、ひょっとするとそのトランクの中に、なにか当時の隠れた事実を証明するようなものが入っていないとも云えないと思う。そう考えた妾は、恥かしいけれど一切のことを貞雄の前にさらけだした。
「ああそんなものがあるのなら、一度出して検べてみたらどうだネ」
 流石《さすが》に医者である彼は、変態的な妾の生活など嗤《わら
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