は必ず庭に一度降りてきて、それからまた座敷に上ってきて、もう一度はじめから同じことをして、かの不幸なはらからを慰めることが必要であったのだ。だがなぜにそんな煩わしいことを繰返す必要があったのか、どうも妾の腑に落ちかねる。
 この紅いリボンのカンカンはよほど妾のはらからの気に入ったものらしく、或る日妾が何の気もつかずいつものような紅いカンカンを結んで座敷牢に近づくと、座敷牢に寝ていた幼童はさも待ちかねたという風に、いつになく頭を振っていまだ一度も見たことのないほど悦び騒いだ。妾は何ごとが起ったのだろうと訝しく思っていると、傍に附添っていた母が、
「ホラ珠《たま》ちゃん(妾の名、珠枝《たまえ》というのが本当だけれど)――このカンカンをみておやりよ……」
 と妾に云うので、それで始めて気がついてよくよく幼童の髪を見ると、向うでも髪に、妾と同じような紅いリボンを、数も同じく三つつけていたのであった。
「カンカン。……」
 と廻らない舌で叫び、あとはキャーッというような奇異な声をあげて、彼女――カンカンを結《ゆ》って喜ぶのだから、まさか「彼」ではあるまい、「彼女」にちがいあるまい――妾と同じカン
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