持ってくるのが、立葵であっても蜻蛉草であっても、それからまた笹舟であっても、どれであろうと大した違いがないのだった。つまり妾のはらからにしても、またそれを云いつけた妾の母にしてもが、折角《せっかく》持ってきてやったものを殆んど見向きもしないで、ただ妾が、
「いいカンカンでしょ、ばア……」
 と同じことをやるのに対して、たいへん悦び合うのだった。だから妾はたびたび庭に下りさせられるのがすこし不満になった。あまり悦ばれもしないのに、そういちいち力を出して花や草を折ってくるのが莫迦《ばか》らしくなった。それで一度に草花を沢山とって懐中にねじこんで置き、母が庭へ下りて取ってこいと云いつけると、待っていましたとばかり、懐中からヒョイと草花を取出して格子の中に投げ入れたのだった。すると母は顔を赤くして、そんなずるいことをしてはいけない、すぐ庭に下りて新しいのを取ってくるようにと恐い顔をして云いつけるのであった。妾はまたしても無駄骨でしかないことを庭に降りて繰りかえさねばならなかった。その代り、母たちは妾の手折ってくる花や草が、たとえ破けていようが、汚れていようが、決して叱りはしなかった。とにかく妾
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