カンをつけているというので、たいへんな悦びようであった。母はいつも彼女の背後に坐り、その頭の後方にある真黒な切布を覆った枕とも蒲団ともつかない塊の上に手をかけて、妾たちを見守っているのであったが、このカンカン競べのあったときは、どうしたものかその黒い切布をかぶったものがまるで自ら動きでもしたように捲かれてきた。そのとき妾はその黒布の下に、また別な紅いリボンがヒラヒラしているのを逸早《いちはや》く見てとったものだから、たちまち大変気色を悪くしてしまった。
「ずるいわずるいわ、あんたはあたいよりも沢山リボンを持っていて、隠したりなんかしているんですもの……」
と妾は格子につかまって駄々をこねだした。母はその内側でなにかひそひそ優しく叱りつけている様子であったが、それは妾を叱りつけているわけではなかった。と云ってヘラヘラ笑いつづけている機嫌のよい幼童を叱っているのだとも、すこし違っているように思えた。母は暫くしてから格子の外の妾の方を向き、
「珠ちゃん、リボンの数は皆同じよ。ホラよくごらんなさい……」
といった。そういわれてからよく見ると、妾のはらからの頭にはチャンとリボンが三つついてい
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