ねた。
「どうも小さい折のことで、僕はよく覚えていないけれど、いつか夜、父が子供を連れて来たことを覚えている。僕はその顔をみたわけではないが、二階に上げた子供がヒイヒイと泣いているのを聞きつけた。それが君のいう座敷牢の中にいた同胞だろうと思うが、泣き声から想像すると、二人のようでもあったがネ」
「ええなんですって、連れられていったのは二人だったんですって、まア、――」
妾は想像していたところと、まるで、違ってきたので、呆然としてしまった。向うが二人だとすると、妾を入れて三人になるではないか。すると双生児と称《よ》ぶのはいかがなものであろう。それを貞雄に云ってみると、
「幼いときのことだから、ハッキリしたことが分らないんだ。それに父の常造も先年死んでしまったし、母はもっと前に死んでいた。今、安宅村へ行っても、その夜のことや、君の同胞の秘密について知っている人は一人もあるまい」
「そうでしょうか。――」
妾はガッカリしてしまった。その様子を見ていた貞雄は気の毒に思ったのであろう。すこし厳《げん》とした声で、
「でも君の知りたいと思っていることは、絶対に分らないというわけではあるまい。つ
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