か今日は御馳走でもして貰って、昔話でもしたいネ」
「ええ、御馳走してよ。そして是非泊っていって下さいネ。昔話を沢山したいわ。妾もいろいろ伺いたいことがあるのよ」
 丁度、妹の静枝は、少し身体を壊している女探偵速水女史に附き添わせて、奥伊豆の温泉にやってあるので、家の中はキヨと二人切りだったので、貞雄を泊らせるには一向差支えなかった。
「いや泊ることだけは断る。僕はこれで、ひとの家にお客なんかになっては中々睡れない性分なのでネ。それにチャンとホテルに部屋をとってあるのだから、心配はいらないよ」
「いいから、ぜひお泊りなさいよ」
「いやいや断る。――」
 小さいときもこんな性分だったが、とにかく今の貞雄は学者だけあってなかなか頑固であった。妾は近くから珍らしい料理を狩りあつめて貞雄を饗応《きょうおう》しながら、この機会に妾の悩みを打ちあけて、力になって貰おうと思った。
 まず妾は貞雄に向い、あの立葵の咲く家の座敷牢の中に寝ていた妾の同胞《はらから》を探したいという気になって新聞広告をしたことから始めて、静枝や真一などが現れるに至ったまでの話を詳しくして、もしや彼が、妾の同胞を知らないかと尋
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