足掛りとして、思い切って会ってみることにした。さあ、どんな男だろうか。一と目見て心臓が凍ってしまいそうでもあり、また早く覗いてみたいようでもあり……。
「妾が主人の珠枝でございます――」
頃合を計って客間へ這入《はい》っていった妾は、客という背広の紳士の背中に声をかけた。
「いやア――」
と紳士は、居住いを直しながら、こっちを振り向いた。ああ、その顔――まあ、なんてよく似ている人もあればあるものだろう――と、妾は驚くというよりも感心してしまった。
「ああ確かに貴女だ。こんなによく似ているとは思わなかった。ああ僕は満足です――」
と向うでも容貌の似通っていたことに驚歎して、たて続けに叫びつづけた。
「アノ、失礼でございますが、貴方は誰方《どなた》さまでいらっしゃいましょうか」
「ああ、僕ですか。イヤどうも余りに驚いてしまった、名乗ることを忘れて申訳ありません」
と云いながら、紳士はチョッキのポケットから一葉の名刺を抜いて、妾の前に差出した。
「僕はこういう者です。姓の方に何か御記憶がありませんでしょうか」
その名刺の表には、
「南八丈島医学研究所、医学博士|赤沢貞雄《あかざわさ
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