では、彼が曲馬団時代に怨恨を残して来た者がわが家に忍びよって殺したとも思われない。ただ、曲馬団というので思い出したが、あの静枝はその例外だと思う。
静枝! 静枝!
そうだ静枝が殺したのではなかろうか。静枝のことは、速水女史の調べで妾のはらから[#「はらから」に傍点]ということが判明したことになっているが、真一から聞《き》いたところによると、元同じ銀平の曲馬団にいたお八重という蛇使いだという話であった。彼女の秘密が旧い馴染の真一の口から洩れそうだと知ると、これは殺しかねないことだろうと思われた。だがそれをハッキリ云うには、それほど確かな証拠が揃っていない。それに真逆《まさか》あのような優しい静枝がとは思うが、これは一つ確かめてみる必要があると思った。
「真一を殺したのは、誰だ?」と。
もう妾は静枝を疑う気はしなかった。誰か外《ほか》に真一殺しの真犯人がいなければならぬ。そういえば、あの日気がついたことだが、確かに閉めさせてあったと思った奥庭つづきの縁側の雨戸に締りがかかっていなかった。その奥庭というのは玄関脇の木戸さえ開けばそのまま入って来られるようになっていたのであるから、これは
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