の人て誰のことだろう。妾はちょっと気懸りになった。
「じゃあ真さん、先へ入って待っててちょうだい。しかし何を見ても出て来ちゃ駄目よ」
「ははア、なんですか。じゃお先へ入っていますよ」
妾は部屋の鍵を明けると、真一を中へ押しやった。そして入口の扉を引くとそのまま廊下へ引返して、キヨの後を追った。キヨは先に立って御玄関へ出た。
「アラ、どうしたの」
妾は御玄関でキョロキョロしているキヨの肩を叩いた。
「まあ変でございますわねえ。いままでここに立っていらっしゃいましたのですけれど、どこへお出でになったのか、姿が見えませんわ」
「まあ、いやーね」
妾はすこし腹が立って、今夜は逢わないといえと云いつけて、すぐさま真一の待っている離れの間へ引返した。
「真さま、お待ち遠さま」
重い扉をあけて、中へ入ったが、どうしたものか真一は返事をしなかった。狸寝入《たぬきねいり》かしらと一歩、室内に踏みこんだ妾はそこでハッと胸を衝《つ》かれたようになって棒立ちになった。
「まあ、――」
当の真一は蒲団の側に長くなって斃れていた。顔色は紫色を呈して四肢はかなり冷えていた。心臓は鼓動の音が聞えず、もうすっ
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