かり絶命しているようであった。その枕もとに水を呑んだらしいコップが畳の上にゴロンと転がっていた。
意外な、そして突然の、「海盤車娘」の死だった!
自殺か、他殺? 他殺ならば一体誰が殺したのであろう?
5
妾は「海盤車娘《ひとでむすめ》」の真一がもう死に切っていると知ると、あまりのことに頭脳がボーッとしてしまった。さしあたり先ず何を考え何から手をつけてよいのやら、まるで考えが纏《まとま》らない。唯空しく真一の屍体を眺めているばかりだった。
そのうちに少し気が落着いてきた妾は、
「医者だ! 早く医者を呼ばねばいけない!」
ということに気がついた。そして立ち上った。医者ならばこの男を或いは助けられるかもしれない――と、始めは思ったものの、しかしもしもこの真一がこのまま生き返らなかったらどうなるのだろうと、それが俄かに気懸りになった。この男は妾の寝室で死んでいるのだ。ああ、そして――今この寝室の中には、他人に見せたくないものがいろいろ用意せられてあるのだった。そのようなものを若《も》し他人に発見されたらば、どんなことになるであろう。若い未亡人がそのような秘密の慰安を
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