かけた。
首尾は極上《ごくじょう》だった。自室の方はすっかり妾の手で準備が整った。そこで妾は決心をして、真一を呼びにいった。彼は呼ぶとすぐ部屋から現れた。そして子供っぽい顔を照れくさそうに赧《あか》く染めて、長い廊下を妾について来た。妾は海盤車娘踊の舞台を、いつも寝室にしている離れの寮に選んだのだった。
そのとき、廊下にバタバタと跫音《あしおと》がして、お手伝いさんのキヨが飛ぶように走ってきた。
「あ、奥さま。お客様がお見えになりました」
「お客様? 誰なの」
せっかく楽しみのところへ、お客様の御入来は迷惑だった。なるべく追いかえすことにしたいと思った。
「お若い紳士の方ですが、お名前を伺いましたところ、奥さまに逢えばわかると仰有《おっしゃ》るのです」
「名前を伺わなければ、あたしが困りますといって伺って来なさい」
「ハア、でございますが、その方……」
といってキヨは目を円《まる》くしてみせながら、
「殿方でございますが、とってもお奥さまによく似ていらっしゃいますの。殿方と御婦人との違いがあるだけで、まるで引写しでございますわ」
妾はギクリとした。自分にそんなによく似ている男
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