う一方――その方のお名前を静枝さまと申上げますが、その静枝さまをお伴い申したのでございます。いま御案内申し上げますから、なによりもお会い下すって、よくよく御覧遊ばして下さいませ。あの、静枝さま。どうぞ、こちらへ」
饒舌《じょうぜつ》女史は可愛げもない台詞《せりふ》をのべたててから、次の間の方へ声をかけた。
襖《ふすま》の外では微《かすか》な返事があって、やがてやさしい衣摺《きぬず》れの音とともに、水々しい背の高い婦人が入って来た。妾はその婦人を一目みて、どんなに驚いたことであろうか。まことに吾れながらその顔形といい、躯つきといい、髪や衣服の趣味、さては化粧の癖に至るまでこんなにもよく似た婦人がいるものかと、暫くは呆然《ぼうぜん》と打ち見護っていたほどであった。これが話したいという第三の人物である。
「あら、お姉さまでいらっしゃるの。……まあお懐しッ。あたくし静枝ですわ。おお……」
といって、その静枝嬢はバタバタと畳の上を飛んでくるなり、妾の胸にとりすがって、嬉し泣きにさめざめと泣くのであった。それはまるで新派劇の舞台にみるのとソックリ同じことで、いとど感激の場面が演ぜられたのだっ
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