た。とり縋《すが》られた途端に妾もハッと胸ふさがり、湧きくる泪《なみだ》を塞《ふさ》ぎ止めることができなかった。
「おん二方さま。お芽出とう御祝詞を申上げます。あたくしも思わず貰い泣きをいたしました」
と速水女史までもが、新派劇どおりに目を泣き腫らしたのだった。
「一体これはどういう事情だったんです」
と妾はいつまでも鼻をかんでいる速水女史に尋ねた。
「いえもうそれは、たいへん混《こ》み入《い》った話になりますが、今日はちょっとかい摘《つま》んで申上げます」
と饒舌女史が語りだした省略話をもう一つ省略して述べると、次のような事情であると分った。
――速水女史が徳島の安宅村というところへのりこんできいてみると、妾の母の勝子はもちろん死んでいて問題の幼童――つまり静枝のことを聞きだすべくもなかった。それから伯父の赤沢常造のところに静枝がいたということであるから、これを質《ただ》してみたが、自分のところに、その幼童をちょっと預かったことはあるが、間もなく母の勝子が連れだしたまま行方不明になってしまって、自分は知らないという。そこで村の故老などにいろいろ聞きあわした末、その幼童が静枝と
前へ
次へ
全95ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング