名とか憶えていらっしゃいません」
「近所の地名ですか何ですか。アタケといっていましたわ」
「ああアタケ、安宅と書くのでしょう。ああ、それですっかり分りました」
 と、春子女史はいった。
「すると奥さまのお郷里《くに》は四国です。阿波の国は徳島というところに、安宅という小さな村があります。そこならサワ蟹だって、立葵だって沢山あります。ではあたくし、これから鳥度《ちょっと》行って調べて参ります。四五日の御猶予《ごゆうよ》を下さいませ」
 女史の探偵眼はたいへん明快であった。どうして、そんな明快な答が出たのか妾には合点がゆかなかったけれど、彼女は別に高ぶる様子もなく、妾の故郷だという四国の安宅村へ、三人の双生児の実相を確めるために発足するといって辞し去った。妾は狐に鼻をつままれたように、女史を見送ったが、後になって一切が判明するまではこの女流探偵の神通眼《じんつうがん》は単に出鱈目だと思っていたのであった。


     3


 新聞広告を見て妾を尋ねてきた人の中で、第二にお話しておかなければならないのは、安宅真一《あたかしんいち》という青年のことだった。その青年は、背が極《ご》く低くて子
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