「それくらいの相似なら、どんな他人同志だって似ているわよ。とにかくあんたは、あたしの探している双生児の一人じゃないと思うわ」
「そういわないで、僕を助けて下さい」
と真一は両手で顔を蔽《おお》い、ワッと泣きだした。
「ぼ、僕はいま病気なんです。それで働けないのです。僕はもう三日も、碌《ろく》に食事をしないでいます。ますます身体は悪くなってきます。お願いですから、助けて下さい」
こんなことになってしまって、妾はたいへん当惑《とうわく》した。これはなんとかして、早く帰ってもらわないといけないと思った。それには彼が居たたまれないように、もっと弱点をつくことにあると思った。
「あたしは、本当のはらから[#「はらから」に傍点]を見つけたくてあの広告を出したのよ。あんたは知らないでしょうけれど、あたしは双生児でも、三人一組なのよ。つまり三人の双生児であると、死んだ父が日記に書き残してあるわ。この点からいってもあんたの持ってきた話の中には三人の双生児という重大な謎を解くに足るものがすこしも入っていないじゃありませんか。だからたいへんお気の毒だけれど、あたしはあんたを兄とも弟とも認めることができないのよ。ネ、わかるでしょう」
畳に身を伏せて、嗚咽《おえつ》していた真一は、このとき俄かに身体をブルブルと震わせ始めた。それは持病の発作が急に起ってきたものらしかった。彼は苦しげに胸元を掻きむしり、畳の上を転々として転がった。あまりに着物を引張るので、その垢じみた単衣はべりべり裂け始め、その下から爬虫類《はちゅうるい》のようにねっとりした光沢《こうたく》のある真白な膚《はだ》が剥《む》きだしになってきた。そして妾は、はからずもそこに遂に見るべからざるものを見てしまった。真一の背にある恐ろしき瘢痕《きず》!
「おおいやだ――」
彼の話に勝《まさ》って、それはなんという気味の悪い瘢痕だったろう。それは確かに生きている動物のように蠢《うご》めいた。或いは事実そこに腕のような活溌なものが生えていたのかもしれない。そのとき不図《ふと》妾は、いままでに考えていなかったような恐ろしいことを考え出した。それは真一の瘢痕のあるところに、もう一つ別の人間の身体が癒着《ゆちゃく》していたのではなかろうか。いわゆるシャム兄弟と呼ばれるところの、二人の人間の一部が癒着し合って離れることができないという一種の
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