。呆れるという以上に、近頃刺戟に飢えているらしい我が身にとって何かしら、気にかかることでもあった。
「それであんたは妾の兄弟だと思っているの」
 と、妾は話頭を転じたのだった。
「さあ、それを確かめたくて伺ったのですけれど、とにかく僕は貴女がなにか関係のある人に思われてならないのです」
 聞けば聞くほど、興味の深い海盤車娘《ひとでむすめ》の物語ではあったけれど、妾はそれ以上聞いているのに耐えられなかった。それでもういい加減に、この変な男に帰ってもらいたくなった。それで妾は最後にハッキリと云ってやった。
「こうして話を伺っていると、あたしとあんたとは、たいへん身の上が似ているように思いますわよ。でも、あたしとしては、知りたいと思う一番大事なことが、いまのあんたの話では説明されてないように思うのよ。第一それはネ、あたしと双生児のその相手というのは、あんたみたいに男ではなくて、女だと信じているわ。つまりこうなのよ。あたしが小さいとき、その双生児の寝ている座敷牢のようなところへ行ったときに、その子は頭髪に赤いリボンをつけていたのをハッキリ憶えているのよ。赤いリボンをつけているんだから、きっとその子は女に違いないと思うわ」
「しかし僕は、長いこと女の子にされてしまって海盤車娘というやつをやっていました。女といえば女じゃありませんか」
「さあ、それは違うでしょう。あんたが女の子に化けたのは八九歳から後のことでしょう。興行師の手に渡ってから、都合のよい女の子にされちまったんじゃありませんか。あたしの憶えているのはずっと幼い五六歳のころのことです。その頃のあたしはちゃんと父母の手で育てられていたので、男の子を特別に女の子にして育てるというようなことはなかったと思うわ」
「そうでしょうかしら」
 と真一は物悲しげに唇を曲げた。
「それにサ、世間をみても双生児には男同志とか女同志とかが多いじゃないこと。そしてさっきからあんたの顔を見ているのだけれど、あんたとあたしとはまるで顔形も違っていれば、身体のつき[#「つき」に傍点]も全然違っているように思うわ。ね、そうでしょう。どこもここも違っているでしょう。強いて似ているところを探すと、身体が痩せていないで肉がボタボタしていることと、それから月の輪のような眉毛と腫《は》れぼったい眼瞼とまアそんなものじゃないこと」
「それだけ似ていれば……」

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