畸形児のことである。つまり真一の場合は、もともと二人であったものが、瘢痕のところで切開されて別々の二体となったものではあるまいか。そうすると別にあったもう一つの人体はいまどこに居るのだろう。そう考えると、たいへん恐ろしいことだった。
「だが、それは真一の場合の恐怖であって、あたしの身の上の恐怖でないからいい!」
 と妾は口の中で云ってみた。前にも云ったように、真一と妾とでは、双生児らしく似かよったところがないと思う。双生児に二種あって、一卵性双生児と二卵性双生児とがある。前者はたいへんよく似た瓜二つの双生児が生れるし、後者はそれほど似ていない。似ていないといっても、普通の兄弟姉妹を並べてみたときのように、これははらからだと一見して分る程度にはよく似ているのだった。妾と真一の場合を比べてみると、もちろん一卵性双生児のように瓜二つではないことは云うまでもないが、また二卵性双生児といえるほども似ていない。ややどこかが似ていないでもないが、その程度はとても二卵性双生児などと認められるほどのものではない。だから結局妾と真一とは、それほどの仮定を考えてすら双生児らしいところがなかった。
「その上、もっとハッキリした否定証明がある!」
 妾はもう一つ否定証明を考えついた。それは六《むつ》ヶ敷《し》い医学的な証明でない。つまり仮りに真一にシャム兄弟的なもう一人の人間があって、それと妾とが同じ日に同じ母から分娩されたとしたら、これは常識からいっても所謂《いわゆる》三つ子である。つまり丁寧にいえば三人の三生児と呼ぶことが出来てもこれを三人の双生児とは呼ぶことはできないであろう。
 結局妾は疑心暗鬼から、たいへん入り組んだことまで考えたが、これは考えすぎてたいへん莫迦をみたようなものであった。まるで抜け裏のない露地を、ご丁寧に抜け路があるかしらと探しまわって草臥《くたびれ》もうけをしたようなものであった。ともかくこれで真一の場合は、妾に関係のないことがハッキリ証明できたように思うのであるけれど、それでいてなお、なんとなく気がかりなのはどうしたことであろうか。それは妾の身の上を離れて、真一が背中にもつあの瘢痕の怪奇性が妾を脅かすのであろうか?
 とにかくそんなことは忘れてしまって、妾は父が手帳の中に書きのこした「三人の双生児」という字句が持つ秘密を、別な方面から調べてみなければならない。そ
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