》の上にうえられていた。みんなよく育っていた。
「このきゅうり[#「きゅうり」に傍点]を見てごらんなさい[#「ごらんなさい」は底本では「ごらんさい」]」
 そこの技師からいわれて、正吉はそのきゅうりをみていた。
「おや、このきゅうりは動きますね。おやおや、どんどん大きくなる」
 正吉はびっくりしたり、きみがわるくなったり、これは、おばけきゅうりだ。
「この頃の農作物は、みんなこのようなやり方で栽培《さいばい》しています。昔は太陽の光と能率《のうりつ》のわるい肥料《ひりょう》で永くかかって栽培していましたが、今はそれに代って、適当なる化学線と電気とすぐれた植物ホルモンをあたえることによって、たいへんりっぱな、そして栄養になるものを短い期間に収穫《しゅうかく》できるようになりました。こんなきゅうりなら、花が咲いてから一日|乃至《ないし》二日で、もぎとってもいいほどの大きさになります。りんご[#「りんご」に傍点]でもかき[#「かき」に傍点]でも、一週間でりっぱな実となります」
「おどろきましたね」
「そんなわけですから、昔とちがい、一年中いつでもきゅうり[#「きゅうり」に傍点]やかぼちゃ[#「かぼちゃ」に傍点]がなります。またりんご[#「りんご」に傍点]もバナナもかき[#「かき」に傍点]も、一年中いつでもならせることができます」
「すると、遅配《ちはい》だの飢餓《きが》だのということは、もう起らないのですね」
「えっ、なんとかおっしゃいましたか」
 技師は正吉の質問が分らなくて問いかえした。正吉は、気がついてその質問をひっこめた。まちがいなく五十倍の増産がらくに出来る今の世の中に、遅配だの飢餓だのということが分らないのはあたり前だ。


   海底都市《かいていとし》


 動く道路を降りて丘《おか》になっている一段高い公園みたいなところへあがった。もちろん地中のことだから頭上には天井《てんじょう》がある。壁もある。その広い壁のところどころに、大きな水族館《すいぞくかん》の水槽《すいそう》ののぞき窓みたいに、横に長い硝子《ガラス》板のはまった窓があるのだった。
 その窓から外をのぞいた。
「やあ、やっぱり水族館ですね」
 うすあかるい青い光線のただよっている海水の中を、魚の群が元気よく泳ぎまわっている。こんぶ[#「こんぶ」に傍点]やわかめ[#「わかめ」に傍点]などの海草の
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