三度目にはいった時に、艇は前部からガスの逆噴射《ぎゃくふんしゃ》を開始し、だんだん速度をゆるめると共に浮力をつけた。そこらは操縦のお手ぎわだった。そしてついに見事に雲の海に着陸した。
もし下手な着陸をやれば、月面に衝突して、たちまち艇は一個の火の塊《かたまり》となって、全員もろとも消えてなくなるであろう。
「よかった。おめでとう」
「艇長。おめでとう」
艇内には、よろこびのことばが飛んだ。
正吉は、さっきから窓によって、はじめて見る月世界の景色に魂《たましい》をうばわれている。
(ああ、ずいぶんすごいところだなあ。高い山、くらい影、木も草もない。これがほんとの死の世界だ。空はまっくらだ。あそこに輝いているのは太陽らしい。ここは雲の海だというが、水|一滴《いってき》ない。こんなところに一週間も暮したら、気がへんになって死にたくなるだろうなあ)
だが正吉は、やがてこの死の国のような月世界で、ふしぎな者にめぐりあい、一大事件の中にまきこまれるなどとは、夢にも思っていなかった。
空気服《くうきふく》
「全員空気服をつけよ」
艇長からの命令が、各室へつたわった。
「さあ、
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