空気服だ。かぶと虫[#「かぶと虫」に傍点]の化けものになるんだ。やっかいだな」
「やっかいだって。でも、空気ににげられちまって死ぬよりはましだろう」
「もちろん死ぬよりはましさ。だが、空気服はきゅうくつだから、ぼくはきらいさ」
空気服というのは、身体のすっぽりはいる潜水服みたいなもので、あたまに潜水兜《せんすいかぶと》に似たかぶとをかぶる。しかし空気服についているかぶとは、前半分ほど透明だ。
空気服の中には地球の上と同じほどの濃《こ》さの空気がはいっている。そしてたえず空気をきれいにし、不足の酸素を補給する。空気服は特製の人造ゴムまたは軽硬金属板《けいこうきんぞくばん》で出来ていて、外界と服の中とは、完全に気密――つまり空気が逃げる穴や隙間《すきま》がない。
それからこの空気服は、かなりの圧力にたえるように、しっかりした材料で作られている。
空気服の特長は、もっとある。月世界は非常に寒い。そこで空気服の中は、いつも摂氏《せっし》十八度に温められてある。
まだ仕掛がある。空気のない月世界などでは、音を出すことができない。音は空気の波であるから、空気がなければ音は出ないわけだ。そ
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