ころですか。大地震でもあるのですか」
 正吉はカコ技師のそばからまだはなれない。
「もう地震はないね。月世界はすっかり冷えきって、死んでしまった遊星《ゆうせい》だから」
「じゃあ、強盗《ごうとう》でもあらわれるのですか」
「まさか強盗は出ないよ。いやしかし、強盗よりももっとすごい奴があらわれる心配がある」
「なんですか、そのすごい奴というのは……」
「それはね、われわれ地球人類でない、他の生物が月世界へやってくるといううわさがあるんだ。この前にも、ある探検隊員は、それらしい怪しい者の影をみて、びっくりして逃げて帰ったという話である。また、ある探検隊員は月世界で行方不明になったが、さいごに彼がいた地点では格闘《かくとう》したあとが残っている。またそこに落ちていた物がわれわれ人類の作ったものではないと思われる。そういうことから、他の遊星の生物がかなり、前から月世界へ来ているではないか。それなら、これから月世界へ行くには、よほど警戒しなくてはならないということになったのだ」
 カコ技師の話は、正吉をおどろかせた。この宇宙は、地球人類だけが、ひとりいばっていられる世界だと思っていたのに、それが
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