、四人ずつのって、天井をこわそうと、大きなこぶしをふりあげて、がんがんと叩く。そこを叩きわられてはたいへんだ。
 上にのっている異人たちを、銃でもって射ちおとしたいと思ったが、上にのっているのでは射ちようがない。おまけに夜の闇は深くて、相手の姿をしかと見つけるのも容易なことではなかった。
(これは手おくれとなったかな。もっと早く、武器をとって相手をおっぱらうのがよかったかな)
 隊長も、さすがに暗い気持ちになった。
 たしかに手おくれに見える。このままでは、一同は、異人群のために捕虜になるか、うち殺されるかのどっちかだ。
 ああ、重大なる危機来る!
 そのときだった。とつぜん異人たちがさわぎだした。装甲車の上にいた異人《いじん》が四人、五人、風にさらわれたように吹きとばされたのである。とまたつづいて四、五人が、下にもんどりうってつきおとされた。
「や、カンノ君が、かけつけてくれたぞ。カンノ君は機銃《きじゅう》で異人たちを射っているそうだ」
 マルモ隊長の受話器にも、他の隊員の受話器にも、カンノ博士の声がはいって来て、一同をはげました。
 カンノ博士と正吉少年と、その他に三名の隊員が、装甲車の上から、異人たちにもうれつな機銃の射撃をおくっていた。他の一人の隊員は、その装甲車を操縦した。ヘッドライトは消して近づいたので、異人たちは、ふいをくらった形だった。
 この機銃は、普通のように金属の弾丸を射ち出す機銃ではなかった。これに使っている弾丸は、銃口から射ち出されると同時に、その弾丸の中で摂氏五百度の熱を発生するようになっていた。しかもこの弾丸は、この熱の発生と共に弾丸の外側がぐにゃりとしたゴムのように軟化し、あたった物にぺったりと付着するのであった。そうして、叩き落とそうとしても離れないのだ。
 しかし二時間たてば、熱も消え、ぽろりと落ちる。――これは熱弾《ねつだん》というが、別に「お灸《きゅう》の弾丸」ともいわれるものであった。相手の生命をとるというほど危険なものでなく、二時間ばかり相手を熱さになやませるだけだ。つまりこの弾丸の命中したものは二時間お灸をすえられているようなもので、従って、力なんか出せない。この熱弾の中には、二種の薬品がはいっていて、発射されると同時にこの二つが作用して、あの高熱を発するようになっているのだ。
 そのような熱弾をくらった異人たちは、びっくり仰天。
「あっ、あつい、あつい」
「わあ、あつい。助けてくれ」
 とでもいうかのように、目を白黒、からだをゆがめて大地をころがり、どことも知れず、闇の中にみんな姿を消してしまった。


   月人《げつじん》の説


 マルモ隊長をはじめ、救われた人々は、大よろこびであった。
 カンノ博士や正吉たちをとりまいて、感謝のことばをおくった。
「あんなおもしろいことは、今までになかったですよ。あいつらは、今もなお、お灸《きゅう》をからだにくっつけて、『あつい、あつい』と悲鳴を挙げているんだと思うと、おかしくておかしくて……」
 そういって笑いこける正吉少年だった。
 みんなも笑った。
「熱弾が、こんなところで最初の手がらをたてようとは、思わなかったねえ」
 と、この熱弾機銃の発明者であるカンノ博士も、にやにや笑っていた。
「さあ、急いでここを引揚げよう。ああいう敵があると分ればぐずぐずしていられない。みんな急いで装甲車へ乗れ。そして急ぎ本艇へかえるのだ」
 マルモ隊長は、引揚げを号令した。
 掘りだしたルナビゥムは、必要量の三分の一にすぎなかったが、今はそれでがまんするほかなかった。一同は前のとおり装甲車に分乗し、急いでトロイ谷《だに》をはなれた。
 一号車の中で、マルモ隊長を中にして、カンノ博士などの幹部や正吉が、今日とつぜん現われた怪しい相手について、意見をのべあった。
「地球をくいつめた強盗団の一味ではないでしょうか」
「彼らはみんなばかに力が強かったですよ。そしてからだもずっと大きく見えた」
「すると何国人《なにこくじん》のギャングかな」
「いや、あれは、われわれの世界の人間ではないと思う」
 そういったのは、マルモ隊長だった。
「地球をくいつめた強盗団ではないとおっしゃるのですか」
「うん。早くいえば、月人だと思う。つまり月世界に住んでいる人間なんだ」
「それは、おかしいですね。月は死の世界で、冷《ひ》えきっています。そして空気もなければ水もない。それなのに、月の世界に住んでいる人間があるんですか」
 これは正吉の質問だった。
 すると、マルモ隊長は、にっこりとうなずいて、
「もっともだ。そういう疑問を持つのは。だがね、この死の世界と見える月にも、あんがい生物が住んでいられるかもしれない。実は今までわしは、月世界には生物なしという考えでいたので、今日まで問題
前へ 次へ
全37ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング